折り紙アーティストのリエン・クォック・ダットさん(Lien Quoc Dat)は、世界の多くの展示会に出 し、その名を知られた人物です。
平和記念公園に立つ「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんは、2歳の時に被爆し10年後の12歳の時に白血病と診断され、闘病の末に亡くなりました。「鶴を千羽折ると願いが叶う」という言い伝えを信じ、1300羽以上の鶴を病床で折り続けたという彼女の話は世界中に広まり、今では、日本以外でも平和や健康祈願に千羽鶴が折られています。ベトナムでもY世代のほとんどの人が鶴を折ることができます。
折り紙は日本の伝統的な遊びのひとつで、現在は折り紙専用紙や和紙だけでなく様々な紙で折られています。20年以上折り紙を続けてきたリエン・クォック・ダットさんの作品は200点以上にものほり、この膨大な作品を紹介するためにYoutubeチャンネル「LQD Money Origami」を開設しました。Kilalaは、彼の折り紙に対する情熱を紹介するためにインタビューをしました。
日本文化への興味はいつから持ち始めましたか。
当時の多くの子供たちのように、マンガは日本を知るきっかけでした。海外から多くのマンガを持ち帰った隣人に毎日借りて読んでいたので、いつから日本に興味を持ち始めたのかははっきりとは分かりません。
しかし、日本の文化にちゃんと触れることになったのは5歳の時でした。当時はまだ折り紙という言葉になじみはありませんでしたが、母が折り紙の本を買ってきてくれて、折り方を教えてくれました。5歳の時でもきちんと順序だてて折っていけば完成させることができました。
お気に入りの作品はどれですか。
私が気に入っているのは、「ウミガメ」です。これは非常にシンプルで滑らかな甲羅が特徴です。しかし、友達の作品を類似していたので、独自性を出すためにより複雑な構造にして紙幣で折ってみました。すると想像以上の作品に仕上がりました。
なぜ多くの作品で和紙の代わりにベトナムの紙幣を使うことにしたのですか。
それは私の前職が動物の研究と教育だったことが影響していると思います。
当時は研究のために、電気もインターネットも無いところへ赴き、夕方にサンプルを収集し、朝、それを処理し写真やメモをとるスケジュールを毎日こなしていました。
しかし、ある時8時間も時間を持て余す時があり、持ち合わせの領収書やノート、紙幣などで折り紙をしたことが和紙にこだわらずに折り始めたきっかけだと思います。そこから様々な研究や創作を始めました。
紙幣と和紙の素材は違いますが、折るのが難しいことはありませんか。
和紙で折り慣れているので、ほかの紙で折るのは難しいです。紙幣は小さく厚みがあり丈夫なので、折り方のパターンは単純なものに限られてきます。また、50工程ほどで完成させることができるので誰にでも折ることができます。
ドラゴンの作品は、柔らかく、丈夫で、繊維質で、張り付かないという特徴があるため通常使われない再生紙で作られていますが、私の折り方だと非常に簡単に仕上げられます。動物学者として、人間の影響が自然環境にどのような影響を与えるかを見る機会がありました。
折り紙の紙も、再生紙、変更紙、廃棄紙など、あらゆる紙材料に組み立てることができ特殊な紙を使用する必要はありません。
多くの人にとって、おそらく再生紙折り紙を作るのは難しいでしょうが、私の作品は通常は非常にシンプルで、手順が少ないので折ることができます。また、再生紙を使って環境保護のメッセージを広めていきたいと思います。
折り紙のパターンには一般的なルールはありますか。
1枚の紙から仕上げるので順序立てて折る必要があります。まずはベースの部分を作成し、正しい比率に合わせて頭、体、手足、翼などの部分を割り当てます。そのあと突起部分を作り細部を折り込んでいきます。
折り紙の折り方を教えるためにYoutubeチャンネルを設立することを考えたきっかけは何ですか。
ミュージシャンや画家などのアーティストが作品を紹介したとき多くの人が真似をするように、私の作品を見た人にも折り紙にチャレンジしてくれることを望んでいます。
Youtubeチャンネルを始める前に本を作ったときは完成までに時間がかかりました。最初の本を制作後は、結婚して子供をもうけ、会社を設立するなど忙しく時間がありませんでした。
そこでたくさんの人にもっと身近に折り紙を楽しんでもらえるようにYoutubeチャンネルを作りました。実際のところYoutubeでチャンネルを開始するのは、私自身のためでもありました。私の作品とその工程を保存しておく場所にもなっています。
嬉しいことに、このチャンネルは多くの人が興味を持って視聴してくれています。
1日24時間を仕事や家族などのためにどのような時間配分で過ごしていますか。
研究や教育の仕事をしている時も自分の時間を確保することができていました。
自分でビジネスを始めた後も仕事は軌道に乗っていて、時間も柔軟だったので好きな折り紙に費やす時間に影響はなかったです。
Youtubeチャンネルには非常に複雑で象徴的な作品が登場しますが、それらの作品を作成するためのインスピレーションはどこから得ますか。
インスピレーションは創造的な作品を生み出すだけでなく、パフォーマンスの向上にも非常に重要です。
数時間で作れる作品もありますが、一枚の紙を一週間かけても折ることができないこともあります。それはインスピレーションに委ねられます。
私にとって、最もインスピレーションを得られるのは普段の生活の中からです。
たとえば、動物モデルは私のお気に入りのBBCドキュメンタリーから、ドラゴンは留まっている鷲からインスピレーションを得ました。また、ゴジラや孫悟空は映画、小説、アニメ、マンガなどのキャラクターをベースにしました。
たくさんの作品を作ってきましたが、飽きたことはありますか。
確かに退屈に感じたときはありました。本を参考に折っていた時、すべてを折り終えた後、次に何を折ればいいのか分からなくなりました。
また、蛇腹に折り畳む方法が流行った時がありました。これは縦と横に等間隔で折り目を付けてから始める方法で頭部、胴体、そのほかの細部をまるでレゴを組み立てるかのように折り進めることができるので非常に便利ですが、忍耐力と細心の注意が必要となります。
中国人作家やベトナム人作家の作品にも多く見られますが、私には適さないと感じました。ある日、折りたいと思う作品がないならどうするべきかという考えから、創作折り紙にたどり着きました。
国際展示会に参加することを光栄に思っていると伺っていますが、そのほかにどのような感情や思い出がありますか。
今振り返ると笑い話ですが、作品を郵便で送ろうとした時に、作品が紙幣で作られていることから送ることはできないと郵便局のスタッフに言われことがありました。その時は笑うこともできず、友達に頼んで手荷物をして運んでもらいました。
また、米国で初めて本の出版を記念した展示会を計画した時は、ちょうど新型コロナが流行し、1年半延期されました。その間、私の作品は倉庫に眠ったままとなっていました。シカゴでの展示会は許可されたのは、米国の誰もがワクチン接種終えた時でした。
スマートデバイスやゲームを好む現代の若者に折り紙はどのような価値があると思いますか。
折り紙の価値は古くから証明されており、宇宙科学、近代建築、医学、教育などに広く応用されています。人工衛星のソーラーパネルの構造は折り紙に通じるものがあります。
また、事故後の手の機能の回復、手の震えの症状軽減のリハビリ、高齢者の脳のトレーニング、自閉症の子供のための治療に折り紙が採用されます。ベトナムを含む世界中のほとんどの国で、折り紙は子供たちが思考と創造性を発達させるとともに、右脳と左脳を同時に発達させるのを助けることができるとされています。
今日のテクノロジーの時代では、ほとんどの若者はインターネットを通じて楽しさと娯楽を見つけます。折り紙は折るときの精神状態が瞑想やヨガに似ているので、集中力を高め、ストレスを和らげ、忍耐を養うなどの精神衛生上のメリットもあると思います。
折り紙は芸術です。折り紙をするのに器用さやスキルは必要ありません。私は誰にとって素晴らしいエンターテイメントとなるのは折り紙だと思います。
この折り紙アートの将来の展望は何ですか。
ベトナムを含む多くの国で、折り紙は子供たちが脳の発達させるのを助けるため、特に小学校で教育に組み込まれています。ベトナムの小学生の教科書で、鶴、帆船、パクパクの折り方が見られます。
しかし、基本的な紙の折り方からそれ以上の折り紙を専門的に教える場所はこれまでありませんでした。
そのため、折り紙に関心がある若者向けのクラスを設け、誰もが高度な作品を作れるようにレッスンを始めたいと思います。さらに、自分の作品の集中講座も開きたいと思います。現在、私が作成した数百の作品のうち22作品を載せた1冊の本しか完成していません。
また、ベトナム人作家の紙幣作品をすべて集めて、世界中に紹介する本シリーズを作るというプロジェクトも大事にあたためています。後々、紙幣の折り紙を見た世界の人々が、「それはベトナム人たちが創ったものとだ」と認識してもらえる日を心気持ちにしています。