女性の活躍を妨げるガラスの天井があるといわれる日本の社会。ガラスの天井を含め、どのようなものがあり、それらをどのように 乗り越えられてきたのか教えていただけないでしょうか?
挫折に近い心境に陥ったことがあるとすれば、就職活動を始めたときかもしれません。
学びの場では感じることのなかった“機会”の絶対量が、働く場では、男性と女性で露骨に違っていたこと、そして、それは当然のことなのだと大人たちが、社会が、言ってはばからない現実……挫折というより落胆と諦観といったほうがフィットします。
ベトナムの皆さんには信じられないことかもしれませんが、当時の現実は、ガラスの天井ではなく“高く分厚い壁”です。女性の正社員募集をしている会社自体が少ないことに加え、女性社員の仕事は「お茶くみとコピー取り」とか、「うちは、社員(男性社員)のお嫁さん候補を採用している」と言われるのも珍しくはないことでした。
「本当に仕事をしたいなら小さな会社を選んだ方がいい」仕事をすることと、有名な大企業に入社することはイコールではないと考えていた私には、特別に挫折感はなく普通に小さなPR会社に入り、社会人として一歩を踏み出しました。
もちろん営業担当時代は、古い体質の業種では露骨に相手にされないなど、小さながっかりは幾度もありました。支社長、役員と職位が上がり裁量が拡がれば、一つの判断が会社に与える影響の大きさがプレッシャーにもなりました。ただ、意外に楽観的なのか、むしろ鈍感なのか、乗り越えよう!と気負うこともありませんでした。
社員をはじめ、多くの人たちの目には、宮崎さんは、芯の強い、自立した女性と映っていると思います。一方で、少し前の日本では、結婚して専業主婦として家庭に入るために会社をやめる、つまりキャリアを終了し、見方によっては夫に頼るという女性も多かったと聞きます。女性のキャリアの継続、また、経済的自立ということについて、どのように思われていますか?
むしろ女性が経済的にも自立していた方が、家族を大切にできるのではないか、と思っています。男性も頼られるのは嬉しいでしょうが、寄りかかられるのは重荷になるでしょう。キリスト教式結婚式で聞いたことはありませんか?
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、 真心を尽くすことを誓いますか」 お互いがどのような状態になっても、パートナーとして支えあって生きるために “自立”はとても大切なことです。もちろん、家事に専念することもキャリアを追求し外で活躍することも一人ひとりの生き方なので、そこには優劣も善し悪しもありません。
誰もが、自分の、家族の、さらに、より広く大切な人の幸せのためより働いていると思います。さらに、遠い国の知らない誰かの幸せのために働いている人もいるでしょう。私は、自分自身の能力を伸ばしながら社会(世界)との接点を持ち続けて、人生が継続する限りキャリアが継続すれば、人生はより豊かなものになるはず、とシンプルに信じています。
キャリアを継続することを選んで成功した日本人の女性は、家族と一緒に過ごす時間を犠牲にし、あるいは仕事のために独身でいるという生き方を選択するというステレオタイプのイメージを持っているベトナム人女性が多くいます。このことについてご自身のお考えと合わせてベトナム人女性へのメッセージをお聞かせください。
家族観から言えば“女は家に”(だから妻のことを嫁と呼びます。この「嫁」という漢字は、「家の女」と書きます)の時代が長く、ジェンダー間分業意識が根強いことは否定できないので、ステレオタイプのイメージを抱かれる方が多いのも頷けます。さらに、日本で、働く場での男女の機会均等が法律によって規定されたのが1986年。法律によって機会均等や平等を定めたということは、裏を返せば、不均等な機会と不平等な扱いが現実だったということですね。
この法律が施行された年に大学卒で社会人になった人たちが54歳前後。企業の中で決定権限を持ち、その子供たちが男女を問わず20代若手社員として活躍しているのが、いまの日本社会です。このような社会の中核に位置する人たちの世代感覚の変化と、産業のサービス化や消費の主役としての女性の存在感が、いま日本の働く女性の機会と可能性を大きく拡げています。
独身でいるかどうかは、もはや仕事のためだけとは言い難く、ワークライフバランスに柔軟に対する企業内の制度も多様になってきました。あとは、男性が家族との時間を大切にしたいかどうか、にかかっているように思えます。そういう意味では、ベトナム男性は家族と、家族との時間をとても大切にする方が多く、これからの私たちのお手本になるかもしれません。
日本人の女性が「仕事」と「家庭」の二者択一に悩むことなく、両立できるようにするには、どのような政策が必要だと思われますか。
日本人の女性が「仕事」と「家庭」の二者択一に悩むことなく、両立できるようにするには、どのような政策が必要だと思われますか。
性別を問わず、企業に、社員の仕事時間と仕事空間を自由設計できるよう支援する政策が生まれてくることに期待しています。日本には働く人々を保護する法律がありますが、デジタル技術の進化による労働環境の変化に対してやや時代遅れな部分が目立ちつつあります。
たとえば、「朝仕事をして、日中4時間ほど子供と遊び、夕方から4時間働く」とか、「サテライトオフィスやふるさと勤務する」とか、現実的に可能な働き方の選択肢が増えているのに、時間管理を取り巻く法律が追い付いていないように思えます。
ライフステージに対応した数年というスパンでも、おおむね「休みがとれる」「勤務時間を短くできる」「休職後も復職できる」など、“仕事をしなくてもいい”条件と“ライフイベントでの休業が仕事を続ける妨げにならない”ことを規定するものが多く、家庭(家事や子育て)だけにとどまらない“働くことを含めたライフデザイン”を応援しているとは言えません。
現在の政策は、総論的には、家庭を犠牲にしないよう働くことを制約する形で設計されているので、まだまだ道は長そうですが、事業活動と社員のくらしをより良い状態にしていくためには、多様なライフデザインを社員と会社が共に考えることは重要です。こうした自由設計そのものが働く人を守ることになる、という基本思想を政策に落とし込んでほしいと思います。
起業を目指す女性にアドバイスをお願いします。
国が違えば、法律も流儀も違うので通用しないかも知れませんが、私自身が経験的に思うことをお話すると、“信頼できる、喧嘩できるパートナー”を見つけてください、ということです。
もちろん一人で起業した方が楽(ラク)ですし、誰かと共に何かを行うのは苦労もあります。でも、共に苦労できることには、楽(らく)を超えた楽しさ(たのしさ)があるからです。
ベトナムには女性社長が率いる会社が30社以上あるのですね。これからますますチャンスは拡がるはずです。決して諦めず、夢をかなえてください!
最後に、Kilala読者へ、宮﨑さんの趣味やアクティビティについて教えていただけないでしょうか。
南の離島で気ままに過ごすこと、です。いちばん好きな島が西表島(沖縄)で、陽がのぼったら起きて、陽が沈んだら、星空を見ながらお酒をのんで寝る。ときどきスキューバダイビングを楽しむ。海の中では、会話はできないので手話になりますが、この身体ひとつで自然につつまれている感覚がとても好きです。